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INTERVIEW

Vol.81 TAKURO WEBインタビュー

デビュー25周年のテーマを【GLAY DEMOCRACY(※1)】として、7つの公約を掲げ、それを果たすべく活動を続けるGLAYだが、その公約の中で大きな“核”となるのは、やはりオリジナルアルバム『NO DEMOCRACY(※2)』の存在だろう。ファンと共に作り上げるアニバーサリーイヤーを【GLAY DEMOCRACY】と名付け、アルバムを『NO DEMOCRACY』と名付けたのはなぜだろうか。アルバムのマスタリングを終えたばかりのタイミングでTAKUROに、その真意と、アルバムに込めた思いを聞いた。

2019.10.17

【GLAY DEMOCRACY】の中の『NO DEMOCRACY』。まずは【GLAY DEMOCRACY】の中でのアルバム『NO DEMOCRACY』の意味から教えて下さい。

TAKURO
我々は、どこまでいっても、どこを切っても、4人それぞれが一票の投票権を持つという“民主的な活動”をしてきた自負があります。だからこのタイミングで、音楽業界の中だけのワードで表現するよりも、ちょっと大風呂敷を広げてもいいかなと思い、名付けました。逆にこの言葉を使ったことで、色々見えてきた部分がありました。時代も令和に変 わって、改めて平成という時代を見直して、新しい時代に対してどうやってバンド活動をしていこうか、どんな音楽を作っていこうか、ひいてはどうやって生きていこうかということを考えました。それをアルバムの中に核として入れたいと思い、平成が始まる前の年にGLAYができて 平成の時代を走り抜け、新しい時代になっても活動している、そういったことを感じさせる、“大人の”アルバムになればいいな、と。大人というか、ちゃんと長く活動してきた者たちだけが語れることがあるはずだから、曲集めをしていた時から、“言葉のアルバム”にしたいと思っていたので、メンバーに「皆さんの本音を聞かせてください」と投げかけました。この15年間くらいは、色々なクリエイターとコラボ、タイアップをさせてもらって、アニメや映画はもちろんですが、他の芸術の文化に対して楽曲を提供することが増えていきました。例えばHISASHIが書いたアニメ『クロムクロ(※3)』のテーマソング『デストピア』や、TERUがアニメ『ダイヤのA(※4)』の一連のテーマソングを提供したり、自分のこだわりプラス、ひとりでも多くの人に受け入れてもらえる言葉を紡ぎ、アニメのテーマソングの“マナー”として、彼らがきっちりとやってきました。でもアルバム 『SUMMERDELICS(※5)』の中で、一番“本音”が出ているのは、JIROの『lifetime(※6)』だったと思います。みんなもう一度自分達の言葉に立ち返って、本来バンドが叫びたいこと、伝えたいこと、世の中に言いたいこと、自分たちが言いたい言葉を取り戻しましょう、と言いました。そこから出来上がってきたのが、TERUの『COLORS(※7)』です。

『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん(※8)』の主題歌になっている、父と子の関係性を描いた「新たな名曲誕生!」というファンからの声も多い曲です。

TAKURO
最初この曲を聴いて「これこれ!」という感じでした。俺はTERUとTERUのお父さんの関係を、12歳の頃から見ているけど、やっぱりそういうことなんだって納得しました。中学校くらいから24~5歳まで、ほとんど会話しなかったと聞いて、俺にはとても仲のいい親子に見えたけど、『COLORS』を聴いたとき、“勝ったな”と思いました。『SOUL LOVE(※9)』のイントロをHISASHIが弾いた時もそう思ったけど 『COLORS』の歌詞を読んだ時も、“勝ったな”と。みなさんからの評判がいいのも、「待ってました!」と思ってもらえたからだと思うし、一人の作家が、経験や技術を伴って成長していって、意図してキラーフレーズを作ることができる“職人”になったと思うけど、このサビは、彼の“本音”が剥き出しになっていて、そこがすごくいいいと思う。

シングル『G4・Ⅴ(※10)』は、結果的にTERUさん曲が多かったですよね。GLAYのいわゆる“王道”と呼ばれる曲はTAKUROさん作のものが多いですが、『COLORS』も“王道”という言葉が似合う曲だと思います。

TAKURO
元々彼自身が“王道”じゃないですか、人間が(笑)。ピカチュウ、ドラえもん、 TERUみたいな、ヒーロー的な佇まいでしたよ、昔から。GLAYも決してサブカルのヒーローになりたいという佇まいでもないじゃないですか。どこまでいってもまっすぐで、HISASHIのそういった面をかき消すほどのTERUの明るさというか、そういう幾重にも重なった構造が面白いから、GLAYはその時々によって、色々な表情を出せるというのは、後々発見したことです。新しい時代を迎えて、今まで抱えてきた問題や議題を、後回しにしないでまっすぐ王道を突き進んで、そして何年か経ったら、また新しい音楽に挑戦という方向を見据えて作ったアルバムです。

『SUMMERDELICS』という、バンドとしての裾野をさらに広げて、面白いことをやろうという、強い意志を感じるアルバムの後、どんなオリジナルアルバム、さらに25周年というアニバーサリーの核となる作品になるのか、楽しみにしていました。シングルはもちろんですが、新曲がどの曲も素晴らしかったです。

TAKURO
嬉しいです。作ったものとしては、最終的にはその言葉をいただけることに尽きますよね。振り切ったというか、とりあえず俺を信じてくれじゃないですけど、そこをみんなすごく楽しんでくれたのがよかったです。バンドであるということを改めて実感して、それぞれのメンバーの個性、長所を伸ばしてきて、でも自分たちは東京に何をしたくて出てきたのかなということを、改めて考えました。それはもちろんバンドをやるためで、世の中のトレンドは色々あるけど、やっぱりスタジオの中にいる時だけは、結成当時の衝動に対して誠実であって、いわゆるトレンドのようなものを一番に考えるのはやめようと。なぜなら、25年やってきて、流行というものは3、4年で変わっていく中で、いくつかの本当に変わらないものに接することができて、他のアーティストなら、それに対して、その時の力強さとか頼もしさとかをちゃんと使えたりするんだけど、GLAYというバンドは、どうしても4人でワイワイ楽しみながらやるバンドなので、GLAYをGLAYたらしめるものを意識して、“言葉のアルバム”にしたいと思ったのが、このアルバムを作ろうと思った、最初の動機ですね。

前回、『愁いのPrisoner(※11)』の発売タイミングでTAKUROさんにインタビューした際、流行に合わせるのではなく、今できることをやる、書けることを書いていくと言っていました。まさにこのアルバムにつながっているというか、結実しているということですね。

TAKURO
突き詰めていくと、純度が高いとか、そういうことなのかもしれないですね。亀田(誠治)さん(※12)と共に作り上げた3枚の中でいうと、この作品が一番今の自分たちと言葉の距離が近い感じがします。若さや、いわゆる恋の切なさみたいなものと違う形の切なさを、大人になればなるほど知るけれど、一人で生きていくことは寂しいけれど、多分2人でいても3人でいても、寂しさとか切なさは絶対あって、それは歳を取れば取るほど理解できるというか。10代20代30代では感じられなかった切なさと、切なさの間の感情みたいなものを歌に、音にできないかなっていうのは思いますね。

恋愛だけではない、大きな愛を今のGLAYが語り、歌うと、圧倒的な説得力を纏って飛び込んできます。

TAKURO
ご存知のようにエンターテインメントの幅もどんどん広がり、ユーザーが音楽を聴く環境も大きく変化していって、そんな中で、音楽で生き抜いていくには、究極のことを言うと、GLAYの音を聴きたければ、GLAY のところに行くしかないと聴き手に思ってもらうしかない。替えが利かないものが、これからもっと望まれていくんだろうということは、この10年で特に感じることです。あらゆることがスマホ上でできてしまい、世の中が圧倒的に便利になりました。とてもいいことだと思う。でも俺たちがレコードとかCDの業界の中で謳歌した黄金時代は、違った形で、違った場所にあったはずで。俺らはそういうところを垣間見れただけでも、ラッキーだし、たぶん今のロックスターは、IT社長だと思うんですよね。かつてのロックスターたちの居場所は、今はなかなかないけど、それでも自分たちが惹かれるものがそういった音楽の世界、ロックミュージックだとするならば、改めてGLAYしか作れないものを、本当に真面目に取り組んでみようというのは、テーマとしてありました。『HEAVY GAUGE TOUR(※13)』の時に歌った『Savile Row~サヴィルロウ三番地~(※14)』の歌詞に<今 胸に響くのは甘い歌じゃない>という一節があって、それを聴きながらなんという縁だろうって思って。『HEAVY GAUGE(※15)』から20年経って、当時からもちろん甘いラブソングはみんなが求めていて、そういう歌が溢れていて、でもそうじゃない歌も欲しくて、だから自分達でちょっと苦味が効いた曲を作ったのだと思います。

少し自分に余裕が出てきたら、人の心を思いやったり、人の幸せを祈る曲を書きたいということも、前回のインタビューでは言っていましたが、まさに今がそうですよね。

TAKURO
そうですね。世の中に悲劇がたくさんある中で、自分の周りにだけはとか、自分にだけは起きないということは、絶対考えられないことだし。せめて対峙する悲しみに対して、自分の感情をどう収めるか、それが大人になるということだろうし、それが代々親が望む、次の時代を生きる者たちへの願いだと思う。一人で生きる術を見つけるというか、他者ときっちり向き合って、お互い理解し合うこととか、今本当にそのことしか望んでいないです。自分の思う通りに生きるとか、そんなことはどうでもよくて、俺たち両親がいなくても一人で生きられる術を見つけたその時に初めて、自分の生きてきた意味とか役割とか、そういうものが自分の中でストンと腑に落ちるような気がする。今、自分がいなかったら、子供はどうするんだろうって思った時に、普段から相手のことを思いやれというのは、自分にそれが返ってくるってことだから。最終的に「生きろ」ってことなんですよね。

『NO DEMOCRACY』に収録されている楽曲、特に新曲について、その込めた思いを教えて下さい。まずは1曲目の『反省ノ色ナシ』は、シニカルな言葉が並んでいて<平成がせせら笑ってらぁ>と、GLAYが生きてきた平成時代を、憂いているようです。

TAKURO
“言葉のアルバム”にしたいということで、割と今までの使い方じゃなかったり、今まで正面から見ていたりしたものを、同じ事柄だけど斜め、後ろから見てみようとか、そういう意味では「今なんて言った?」って、引っ掛かってもらえると嬉しいです。むしろ自分が引っ掛かる言葉をたくさん集めた気がします。この歌詞を書いたのは1~2年前で、ちょっと話が逸れるかもしれませんが、平成という時代をもう一回自分の中で整理しようと思って、色々な本を読んで、色々な識者に会って話を聞く中で、「平成はなぜ失敗したのか」ということをテーマにした経済の本に出会いました。不沈艦とさえ呼ばれたある大企業が破綻する原因が、ボスが嘘をついたことがきっかけで、すでに死に体の会社なのにそれを偽って、社会と社員を騙し続けていました。嘘をつくな、挨拶はちゃんとしろという、幼稚園生が習うようなことが、当時の大企業のトップはできなかった。今もそうなのかもしれませんが。本当のことが言えず嘘に嘘を重ねて、国家を揺るがす倒産劇になってしまうという。でもそれは経済だけの話じゃない。会社経営云々ではなく、嘘をつかないことを前提に、全ての事が回っているという大前提が崩れてしまいます。そういうことを含めて、今回のアルバムは、GLAYにおける壮大な平成史でもあるなと。平成という時代とは?という答えを、誰かのエッセイで見つけて。それは、「平成という時代は、平成に生まれた者には多分理解できないし、平成という時代が何であるのがわかるのは、30年後ぐらいだろう。何故ならば、明治時代を作ったのは江戸の人だからだ」というものでした。昭和生まれの、血気盛んな30、40代の方達が、がむしゃらに作った時代が平成だとしたら、これからどういう答えを導き出すのかを、人が理解できるのは30年後ということです。それを読んだ時に、なんで去年の『紅白歌合戦』のトリが、ユーミンとサザン(※16)だったのかが、なんとなく理解できました。あれが平成の締め方なんだって。それはもう紛れもなく、昭和の青春を謳歌した人たちがBGMにしたのはユーミンとサザンだから、彼らが締めくくったんだなって。それはただ大物だからという理由ではなくて、ちゃんと理由があったんです。平成の歌姫じゃダメだったんだ、と思って。平成の歌姫がトリを務めるのは、多分令和が終わる時なんだと思う。そういうことなのかもしれないなと思って、そんなエッセンスが今回のアルバムには、ものすごく入っています。

『反省ノ色ナシ』が1曲目で、ラストに『元号』を置くことで、希望を残したいというか、希望を感じたいっていう意図があるのでしょうか?

TAKURO
いくら明るい言葉を並べてメッセージにしたところで、それを前向きなメッセージと捉えるかそうじゃないかは、受け取る側の感性で、むしろそこを信じたいし、そこに委ねて、10年後に改めてその感想を聞きたいというか。デビューして、メディアに出るようになると「いいね」とか「よくない」とか言われて、その中で落ち込んだり喜んだりの繰り返しで。でもある時から、当時評判が悪かった曲、嫌いだって言われていた曲が「私嫌いだったんですけど、今30代後半になって理解できました」とか、「急に好きになりました」という感想が増えてきて。例えば子供の頃嫌いだったものが、大人になって食べられるという、人間の曖昧な基準みたいなものが愛おしくて、だから、ポジティブにいこうぜとか、熱血的な事は一行も書いてこなかったんじゃないかな。例えば、俺達がいなくなって、GLAYの音楽だけが残ったとして、それが何かに迷った時に何かしらのヒントになればどうぞ、という感覚なんです。もっというと、今、俺がこの世から去ったとしても、子供達が人生で迷ったら、GLAYの音楽を聴けば、俺が教えたかったことが全部入っているからそれで大丈夫、という気持ちで、あらゆる歌詞を書いています。だから時々馬鹿野郎って言ったっていいし、やっぱり人を愛するって大切だよねって繰り返し言うし。多くの事はできない俺ができることは、とりあえず半径2~6m にいる人を守って、それでもっと男の器が広がった時に、半径10mまでの人のことを救い、死ぬまでには15mまでに広がっているといいなっていう事なんです。大体の人たちはそういう形で死んでいくと思うから、地球の裏側の恵まれない人たちに思いを寄せることはできても、具体的な行動というのは、いつも迷うものだったりするし、せめて自分が思ったことを徒然に書いて、それが次の世代の人たちが迷った時の、何かしらの道標になればいいなという思いで、音楽と向き合っています。

『反省ノ色ナシ』はJIROさん曲です。

TAKURO
JIROさんから曲を頂いて、好き勝手アレンジさせて頂きました(笑)。彼は「いや、俺の曲じゃない」って言ってました(笑)。原曲はテンポももっと速くて、JIROらしい『SHUTTER SPEEDSのテーマ(※17)』のような速さでした。でもトータルで考えた時に、そういうタイプの曲もあるので「こういうアイデアがあるんだけど」ってことで、スタジオで皆でワイワイやっていたら、こうなったという。

先ほど、地球の裏側の恵まれない人たちに思いを寄せる事はできても、と仰っていましたが、8曲目『戦禍の子』がまさにそうですね。悲しみとでも優しさに満ちた言葉が並んでいて、胸が締め付けられます。

TAKURO
この曲はSUGIZO(LUNA SEA/X JAPAN)さん(※18)が、シリア難民の支援活動に取り組んでいるのを見ていて、色々なお話を聞かせていただいているうちに、日本における子供の貧困っていうのも、実は隠れた数値ではものすごく高いらしくて、そういうことも同一線上にもってきたいと思いました。どれくらい悲劇かっていうのは、当事者にしかわからないので、「難民は不幸せで、日本にいたらとりあえず幸せでしょ?」ということでもないなって。誰かの痛みはその人にしかわかり得ない、そうなってくると、壮大な地球の裏側のことを歌っているようで、実はすごく身近なことを歌ってるような気がしてきて。

<今度生まれてくる時は ちゃんと愛してもらうんだよ><君が大人になったら ちゃんと愛してあげるんだよ>と、上からでも下からでもない、普通の人の目線で描いている言葉が胸に突き刺さります。

TAKURO
そうですね、歌にあるように、生まれ変わったらという考え方があったとしても、そこには今の俺という形ではない、逆に俺がどこかの紛争地の子供に生まれ変わるかもしれないし。そういう意味では、俺は死の向こう側は全くのゼロ、無、って考えているので、来世に期待とかはあまりしていません。それでもそういう環境に置かれている子供達の気持ちはわからないけれど、どんなにひどい親だとしても、子供って許してしまうんでしょうね。その切なさは、恋愛とか仕事とかとは全く別の、自分の子供に関係あるなしに関わらず、きついですよね。最後の一節の、生き抜いた末に大人になったのなら、もし自分がどんなことをされても、ひどいことを他にするような人間になるなということが、もしメッセージになるなら、本望です。

アルバムの中で他とは少し異なる温度感というか、光を放っていますよね。だからこの曲はグッときます。  

TAKURO
歌入れの時も、TERUと二人で少しナーバスになったりして、だからあまりライヴではやらなそうな気がする(笑)。聴く方も演る方もしんどいですもん。

3曲目のHISASHIさん曲『My name is DATURA』は、組曲のような構成が不思議な感覚を感じさせてくれ、厚みを作りだしています。

TAKURO
これはアルバムの中で一番好きかも。メロディと歌詞をもらって、HISASHIに「やりたいことがある」と言って、構成は任せてもらって、真ん中の、激しく展開が変わっていく感じを作り、本当にロックバンドがライヴ映えするような、楽器陣の腕が鳴るようなフレーズがたくさん入っています。この曲のテーマというか、HISASHIが持っている世界って、いわゆるバンドサウンドとすごく親和性が高くて、何をやっても全部うまくまとまってしまうので、だったら最後にダメ押しでストリングスをつけようと思いました。ドイツとかロシアのインディーズ映画のような世界観、ドラマティックにしてみようと。でもHISASHIはこんな大曲になると思っていなかったみたいで、「君のギターが一番生きるのは、こういう時じゃないか」と、俺に無理難題を渡されて、あとはよろしくっていう感じでした(笑)。だから色々な楽器を取り出してきて、頑張っていました(笑)。やっぱりバンドであることのひとつの意義って、歌とかメロディというポップスとしての定石みたいなものは大事だけど、さっき言ったGLAYに求めているものを考えた時に、やっぱり4人のここにしかない個性、ここでしか咲けないもの、ここでしか咲かない花みたいなものが、多分あるんだろうなって。だから昔から、ギターソロが長過ぎるとか言われたり、どんなに間奏が長くても、GLAYはそこで間延びしたり、退屈させたことはないという自負もあって、これをマックスまで挑んだのが、この曲です。

メロディは歌謡曲の匂いが漂ってきますよね。

TAKURO
HISASHIがインスト曲とか書くと、EDMっぽい感じになって、そこに詞と曲が乗ると、すごく昔の感じがするというか(笑)、でもそれはGLAYでやりたいことがそういうものなんですよね。今っぽいやつっていったら、それはそれでできてしまうんだけど、本当にやりたいこととなると、やっぱりこうなると思う。それはGLAYだと許されるし、惰性とかかっこ悪いとか、特に基準がないから。やっぱり他の人との仕事の時は、明確にいわゆる現代というものを、どうしても意識しなければいけないけど、GLAYってタイムレスなところがあるから、5年前のメロディを今のものにくっ付けたって、別にいいじゃんみたいな感覚はあります。

その話の流れでいくと、『Flowers Gone』は、TAKUROさんが詞・曲を手がけていますが、19歳の頃に作った曲だとお聞きしました。それを今の時代に陽の目を当ててやろうとと思った理由を教えて下さい。

TAKURO
そうなんです。僕らがインディーズの頃からあった曲で、歌詞は、一部英語の部分は修正しましたが、ほぼ当時のままです。当時配ってたプロモーション用のカセットに入っていた曲です。これもさっき言ったように、平成と共に活動を始めたバンドなので、今のGLAYって究極をいうと、歌詞とかメロディとかアレンジとか、そういうのを超越して、とにかく4人で奏でれば、なんでもいけるんじゃねえかっていう考え方の元、今回提示しました。あとは、こんなアホな曲はもう書けないというか、強すぎる自意識というか、それが間違った形で歌詞になるような、そういう曲って大人になったら絶対書けないので、かつては自分たちはこうだったということが、バンドにとって刺激になるというか、新鮮なんです。アレンジはHISASHIが今風にしてくれましたが、イントロから最後まで、当時のまんまです。『REVIEW(※19)』というアルバムが、おかげ様ですごく売れて、あれって実は普通のベスト盤ではなくて、「それまでの3年間のシングルだけじゃない、俺たちにはこういった面もあるんだ、ロックバンドじゃないって言われてるけど、俺たちはロックが好きなんだ!」という意志を明確に打ち出した作品でした。それこそ『Flowers Gone』と同じくらいの頃に書いた曲を入れて、「GLAYって『HOWEVER(※20)』とか、そういうのだけじゃないのね」っていう風に認知されるというのが、バンドにとってはとても健康的なので、やっぱり自分たちのこういった面というのは、アルバムの中にこそ存在すると思います。

個人的に『氷の翼』が、するめソングというか、冒頭のストリングスと、TERUさんの高い声、イントロのギターからその世界に引き込まれ、転調でさらに抜けられなくなりました。トランペットも効いています。

TAKURO
これの仮タイトルが「汚れてもなおさら」だったんですけど、映画の主題歌にならなかったら、そのままいってました(笑)。これはソロで『Journey without a map(※21)』というアルバムを2枚作ったから広がった人脈、広がった世界なんじゃないかなと。サビで3回転調するんですけど、TERUは平気で歌っちゃうんですよね。これも割り切れないもの、 それこそ世の中の正しいとされる恋ではないけれど、人間なので、汚れながら生きてるので、汚れないで生きられないよねっという感じです。

『誰もが特別だった頃』は、フィリ―ソウルのような壮大で、キラキラしたイントロが印象的です。

TAKURO
これは俺たちが10代だった頃、邦楽のキラキラ感が飛び交っていた80年代のイメージです。JIROは洋楽が好きで、その頃の邦楽をあまり知らないから、ひとつずつ説明して、最後はなんでもいいから面白がって、新鮮に捉えてくれたみたいですよ(笑)。

「根雪」という言葉は、北海道では普通に使う言葉なんですか?<根雪はまだ停車場に>という歌詞が気になって。

TAKURO
俺たちの中では普通ですけど、東京だと雪が積もってもすぐなくなってしまいますよね。この歌詞は、一枚の写真のような風景で、3月の高校を卒業して、大学なり就職なり、自分の生き方に迷うような、そんな自分たちの小説的な部分がかなり写し出されていると思う。

ところどころに出てくる「」内の、心の中の言葉が印象的です。

TAKURO
あの頃は本当によく哲学的というか、答えのないものに対してよくもあんな飽 きずに追い求めていたと思うし、今は答えがないってわかるけど、当時はわからなかった。

『あゝ、無常』もTAKUROさんの詞・曲で、一人の男の弱い部分にスポットを当てた歌詞が、切ないですね。頭のTERUさんの雄叫びが、“無常観”を感じます。  

TAKURO
これは桑田佳祐さんの『孤独の太陽』(※22)のようなイメージで、アコースティックな感じというか、今だから書ける曲だと思う。弱いところとかって歌にしやすいんですよね。自分の弱い部分とか隠してる部分って、どんどん言葉が出てきます。

焚火やキャンプファイアーで、火を見ながらだと普段言えないことが言えるような……。

TAKURO
実際キャンプファイヤーで、アコギ一本で弾けちゃうようなシンプルな曲なので、それをみんなでワイワイと歌うイメージはあります。『孤独の太陽』に代表される日本のフォークロックというか、これは日本語あってのメロディどうこうではない、歌い手と言葉あっての曲ですね。

最新シングル『JUST FINE』についても聞かせてください。

TAKURO
これはギターロックに対するオマージュというか、とにかく俺達はスタジオ入って演奏してる時が一番楽しいんですけど、その感じが出ていると思います。お客さんの前だと、お互いの思いも伝わるし、お金をもらってる以上楽しませなきゃいけないとか、どうしても仕事としての責任感が出るけど、スタジオで皆で演奏している時が、底抜けに楽しい(笑)。めっちゃ適当で、TERUが急に思いついたことをやってみたりとか、アレンジを途中でめちゃめちゃ変えたりとか、本番までになんとかなるからやってられるんだろうけど、思いつきでどんどんうねっていく感じが、バンドって本当にいいなって思う。やっぱりソロシンガーだと、そこまで自由度はないと思う。でもGLAYの現場って、何を言っても大丈夫なんですよ。それだったらこの曲も、頭からギターが高らかに鳴っている感じでいきたいなと。

長めの間奏のギターは、ずっと聴いていたいと思いました。

TAKURO
あれは俺とHISASHIのギター愛を感じてもらえればOKで(笑)、ああいうキメをやりたくて、バンドをやってるような気がするんですよ。それが高校時代からバンドをやっていて楽しかったことなので、そういうことをやりたいだけの曲です(笑)。しかもこの曲には歌詞に意味がひとつもないっていう(笑)。でもセブン-イレブンのタイアップだったので、最初の4行は俺なりのセブンイレブンのイメージを書きました(笑)。「ちょっとアッパークラスだけどオンリーワンなんじゃない?」っていう。

TERUさんの『はじまりのうた(※23)』(『ダイヤのA』主題歌)は、“名曲”という言葉が似合う曲です。

TAKURO
このシリーズは4作目なので、世界にばっちりハマったんでしょうね。主人公の成長というか、高3で負けたら卒業という時で、そういう他者への配慮を感じられる大人になった主人公が、大人の苦味を知る寸前の儚さみたいなものが描かれていると思います。彼自身も球児だったので、気持ちが良くわかると思うし、サビの声の異常な高さというのは、彼が今後目指すところの発声を、色々試してみての結果だと思います。この期に及んで、自分を追い詰めるようなメロディを自分で作ってくるんだって思いながら、もっと楽に歌える曲でもよかっただろうと思いますけど、ここまでトップの音が続くのを欲しているんだなって。もちろん『COLORS』もそうだと思いますけど、何かを見つけたんだと思います。

後半はシングルが並んでいて、どんどんドラマティックになっていきます。

TAKURO
シングルはメロディとかがキャッチーだからシングルになるんだろうけど、このアルバムに入った時は、それをあまり感じなかったんですよね。結果的にシングルが並ぶ曲順になってはいますが、M8 からの流れはすごくいいなと思っています。このアルバムが、この方向になったのは、やっぱり『あなたといきてゆく』の影響が大きいと思う。久しぶりに自分が本当に歌いたいというか、自分の心の奥底から湧き出るような曲ができたな、と。やっぱりこういう歌を照れずに歌えるバンドでありたいなと思います。

この曲と『COLORS』と、“王道”と呼ぶにふさわしい曲が続いています。

TAKURO
そうですね。それこそ、その2つはビートルズにおける『ストロベリー・フィールズ』と『ペニーレーン』(※24)みたいなものだと思っています。

配信シングルの『元号』は、TERUさんのヴォーカルが、すごく生々しい感じで伝わってきます。

TAKURO
本人もそういう風に仕上げたいと思っていたようです。あまりきれいにしないで、思いがダイレクトに伝わるような感じで、最後のシャウトが、この歌の全てだと思う。新しい元号の下でって思いが、溢れ出ていると思う。

確かにアルバムの最後に、TERUさんの生々しい歌と、シャウトを通して、希望を感じさせてくれるし、これからもGLAYはGLAYのままやっていくんだという心の叫びが、伝わってきます。  

TAKURO
運よくバンドも解散せずに、平成を駆け抜けて新しい時代になって、それでもまだ続けることを選ぶどころか、さらに音楽に対する情熱を感じています。毎回、ツアーに出るにあたっては、高校時代のように小さなスタジオでワイワイやりながら、だんだんみんなの顔付きになっていって、そこで旅に出て新しい曲、今の時代を描いた曲を、今の時代の人たちと一緒にわけ合ってきました。そこで何かしら自分たちの曲の中に秘められた、赤塚不二夫風にいうと「これでいいのだ」という感覚を求めてきました。誰もがみんな不安の中で、音楽を通じて「これでいいんだ」って思うことでしか、生きていけないんじゃないかと。考えてもわからないんだから、俺はこれでいいんだ、それは言葉を変えると覚悟ということかもしれないけど、そういう大人の嗜み的な覚悟が見えるアルバムになればといいなと思います。

文・田中久勝
※1:GLAY DEMOCRACY
25周年に際して掲げられたテーマ。ファンと共に作り上げるアニバーサリーイヤーとして名付けた。「バンドって民主主義だと思う。」と謳い、世界各国から叶えたい公約を募集し、GLAYは7つの公約を発表。その後、公約であるフリーライブを実現した。これからも公約の実現に向けて企画を続けていく。
※2:「NO DEMOCRACY」
2019年10月2日に発売した、オリジナルアルバムとしては前作から約2年ぶり15枚目のアルバム。「言葉にこだわった作品」となっている。
※3:クロムクロ
2016年4月~9月放送のテレビアニメ。HISASHI作詞・作曲の楽曲「デストピア」「超音速ディスティニー」が主題歌。
※4:ダイヤのA
『週刊少年マガジン』にて連載中の寺嶋裕二による高校野球をテーマにしたコミック。2013年10月6日よりテレビ東京系列にてアニメ作品もオンエア。第3期2クール目から「流星のHOWL」がオープニングテーマとしてオンエアされている。(2019.10.15現在放送中)。 アニメ『ダイヤのA』公式サイトはこちら:https://diaace.com/index.html
※5:「SUMMERDELICS」
GLAYにとって14枚目のオリジナルアルバム。2017年7月12日リリース。7月24日付けオリコン週間CDアルバムランキングで1位を獲得した。
※6:「Lifetime」
『SUMMERDELICS』収録。JIRO作詞・作曲による楽曲。
※7:「COLORS」
2019年7月2日発売の、通算57作目のシングル「G4・V」収録曲。2019年10月2日発売のアルバム「NO DEMOCRACY」にも収録されている。TERU作詞・作曲の珠玉のミディアムバラードで、『劇場版ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』の主題歌となっている。
※8:『劇場版ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』
2019年6月12日に公開されたファイナルファンタジーシリーズを題材にした映画。GLAYの「the other end of the globe」が主題歌に抜擢されたドラマの劇場版となっている。
※9:「SOUL LOVE」
アルバム「pure soul」収録曲。1998年4月に発売されたGLAYの14作目のシングル。「誘惑」との同時発売で、両シングルで2週連続で1位2位を独占した。
※10:「G4・Ⅴ」
2019年7月2日に発売の通算57作目のシングル。「JUST FINE」「はじまりのうた」「COLORS」「YOUR SONG」の4曲が収録されている。
※11:「愁いのPrisoner」
2018年11月14日(水)発売のGLAYの56thシングル収録曲。TAKUROが作詞作曲を担当し、大手コンビニチェーン「セブン-イレブン」のタイアップ曲になっている。
※12:亀田(誠治)
日本のミュージシャン、音楽プロデューサー、ベーシスト。バンド・東京事変の元メンバー。数多くのミュージシャン/アーティストのプロデュース、編曲、楽曲提供を手がけている。GLAYは2006年の夢人島FESでプロデュースをオファー、2013年7月24日発売の「DARK RIVER」で実現した。
※13:HEAVY GAUGE TOUR
20年の時を超え、GLAYを代表するアルバム「HEAVY GAUGE」の名を冠した、新元号初の全国ホールツアー。2019年5月12日(日)静岡市民文化会館大ホールを皮切りに、全国12都市・20公演開催された。
※14:「Savile Row~サヴィルロウ三番地~」
1999年10月20日発売のアルバム「HEAVY GAUGE」収録曲。曲名にあるサヴィル ロウ3番地とは、ビートルズが最後のライヴコンサート『ルーフトップ・コンサート』を行った場所の住所である。
※15:「HEAVY GAUGE」
1999年10月20日に発売された5thアルバム。20年の時を経て、2019年5月8日には「HEAVY GAUGE Anthology」が発売された。
※16:ユーミンとサザン
ユーミンは日本のシンガーソングライターである松任谷由実の愛称。サザンは日本のロックバンド・サザンオールスターズの略称。
※17『「SHUTTER SPEEDS」のテーマ』
1996年11月18日発売3rd アルバム『BELOVED』に収録。ベースソロ、歌いだしなどJIROを大きくフィーチャーした曲で、ライブでの人気は絶大。
※18:SUGIZO(LUNA SEA/X JAPAN)
人気ロックバンドLUNA SEAとX JAPANのギタリスト。他に、YOSHIKIとのユニットVioletUKのギターやソロ活動、YouTubeチャンネル運営、音楽以外にもチャリティ活動など幅広く活動している。
※19:「REVIEW」
1997年10月1日にリリースされたベストアルバム「REVIEW-BEST OF GLAY」。415万枚の売上を達成し、当時の日本記録を樹立。1999年にはギネスブックに「日本で最も売れたアルバム」として掲載された。
※20:「HOWEVER」
1997年8月6日リリース、12thシングルにしてGLAYにとっては初のミリオンセラーとなった代表曲。
※21:「Journey without a map」
GLAYのギタリストであり、メインコンポーザーを務め、リーダーでもあるTAKUROによる1stソロアルバム。B'z松本孝弘氏をプロデューサーに迎え、ブルースやジャズを基調としながらTAKUROの繊細かつ叙情的なギターサウンドで奏でられたインストゥルメンタル・アルバム。
※22:桑田佳祐さんの「孤独の太陽」
1994年9月23日に発売した桑田佳祐の2枚目のオリジナルアルバム。同作の10曲目に収録された楽曲のタイトルでもある。2001年6月25日にリマスタリング盤が発売された。
※23:「はじまりのうた」
2019年7月2日発売の、通算57作目のシングル「G4・V」収録曲。2019年10月2日発売のアルバム「NO DEMOCRACY」にも収録されている。TVアニメ「ダイヤのA act Ⅱ」オープニングテーマとなっている。
※24:「ストロベリー・フィールズ」「ペニーレーン」
1967年2月にビートルズが発表した14枚目のオリジナルシングル曲。両A面となっており、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」と「ペニー・レイン」が収録されている。

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