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INTERVIEW

Vol.74 『pure soul Anthology』を買うべき、いくつかの理由

1998年に発表されたGLAYの4thアルバム『pure soul』のアンソロジー盤。「誘惑」「SOUL LOVE」「HOWEVER」といったGLAYを代表するナンバーが生まれた背景、特大スケールに成長を遂げていったライブの裏側を検証する、新旧いずれのファンにとっても要注目のアイテムだ。

2018.7.21

8月25日・26日、地元である函館・緑の島にて5万人動員の野外ライブ『GLAY ✕ HOKKAIDO 150 GLORIOUS MILLION DOLLAR NIGHT vol.3』(※1)を開催するGLAYが、『pure soul Anthology』(※2)を7月31日にリリースする。これは1998年に発表されたGLAYの4枚目のオリジナルアルバム『pure soul』(※3)の文字通りのアンソロジー盤であり、2011年の『GLAY Anthology』から続く“アンソロジー”シリーズの第6弾。内容は、アルバム『pure soul』収録曲11曲+「HOWEVER」(※4)他4曲のリミックス&リマスタリング音源を収録したDISC1、収録楽曲のデモ音源を収録したDISC2、そしてBlu-rayに1998年8月30日に行なわれた『pure soul in STADIUM "SUMMER of '98" 阪急西宮スタジアム』(※5)公演の全曲収録+当時のドキュメント映像を収録したDISC3という3枚組に、リリース当時の撮り下ろし写真や雑誌&新聞掲載記事を掲載したブックレット付きという豪華仕様である。

GLAYがどういったバンドであるか。『pure soul Anthology』は今それを改めて知ることができる音源と言えるだろう。まず、DISC1がいい。原盤からのリミックス&リマスタリングが完璧に功を奏して、GLAYがツインギターのロックバンドであることが活き活きと伝わる音像に仕上がっている。M1「YOU MAY DREAM」(※6)からして音の良さがはっきりと分かる。とても小気味いい聴き応えと言ったらいいだろうか。各パートのアンサンブルが際立っていて、とりわけ2本のギターの絡みが最高だ。M6「pure soul」、M7「誘惑」(※7)、M12「HOWEVER」辺りもいいが、白眉はM4「SOUL LOVE」(※8)だと思う。楽曲全体に横たわる独特のポップさをギターが支えていることがよく分かり、それがバンドサウンド全体の躍動感を増しているかのようでもある。今ライブで披露されているGLAYのサウンドは20年前に比べてよりシャープに、より厚みを増しているのは間違いなく、新たにミックスとマスタリングを施すのは、20年間ライブ活動を続けてきたからこその必然とも言える。『pure soul』自体は旧作であるものの、DISC1での音圧とバランスとは2018年のGLAYである。しかも、オリジナルアルバムには収録されていなかった「HOWEVER」と、シングルのカップリング曲も収められているのだから、これはもうほぼ準新作と言っていい。ここ数年のGLAYのライブを見ている人には納得の音像だろうし、1998年前後にはGLAYをよく聴いていたけれども最近はご無沙汰で…という人には新鮮であろう。いや、もしかすると、ご無沙汰組の皆さんにとって、その瑞々しいサウンドと躍動感はむしろ20年前を思い起こさせるものかもしれない。それだけでも、『pure soul Anthology』は新旧ファンいずれにも必携のフィジカルと言える。

これは今回の『pure soul Anthology』に限ったことではないが、この“アンソロジー”シリーズの素晴らしさのひとつは、デモ音源の収録にあると個人的には思っている。我々は正規盤に収録された完成版の楽曲を聴くし、アーティスト側もそれを基本にライブをするのだろうから、完成版の楽曲は元々そういうものだと思い込んでしまっているような節があるが、当たり前だが、完成版は最初から完成版だったわけではない。即興演奏をそのままレコーディングしたのでなければ必ず録音前のひな型があるし、ひな型があるからと言ってそれがそのまま完成版に至るわけでもなく、スタジオでアイディアを出し合う内に楽曲の形が変わっていくことも多々あるという。インタビューでそういう話を見聞くことはよくあるのだが、実際、何がどうなったのかを聴ける機会は意外と多くはない。なくはないが、バンドの解散後であったり、アーティストの没後であったりすることがほとんどだと思う。その点、こうしてGLAYがデモ音源を公表するのは音楽シーン全体を見渡しても貴重な機会であろうし、ストレートに彼らの楽曲へのこだわり、愛情の深さを汲み取れるところである。やはり今回も、デモ音源が収録されたDISC2とDISC1との聴き比べが圧倒的に楽しい。リスナーそれぞれに、変化している点、していない点を確かめてほしいので、事前のネタバレは避けたいところではあるが、以下、少しだけ記すと──。

M11「I'm in Love」(※9)は後半の合唱も含めてさまざまな音を重ねていったことがよく分かるし、M1「YOU MAY DREAM」は正規版に至るまでの苦心のあとさえ想像できる。その一方で、アレンジがほとんど変わっていないと言えるM4「SOUL LOVE」やM8「COME ON!!」(※10)があったり、完成版の雰囲気はデモの録音状態に由来していたのではないかと思わせるM10「3年後」(※11)があったりと、それぞれの楽曲にドラマがあったことが分かる。歌詞の変化も聴き逃せない。中でも注目はTERUが英語詞で歌っているいくつかのナンバーで、この辺りではメロディーセンスの確かさを改めて知ることができると思うし、個人的には既存曲の英語詞版で世界戦略を考えてもいいのでは、と思ったりしたほどである。もちろんデモ段階から歌詞が変わっていないフレーズも多々あり、それはコンポーザーのTAKUROが最も大切にした部分であり、ひいてはGLAYというバンドが本当に伝えたい部分、その核心であったのではないかと想像できる。また、DISC2にはまさに20年の時を経て初めて音源化された未発表曲「PEACE OF MIND」(※12)も収録。全国ツアー『BEAT out! '96』(※13)/『BEAT out! reprise』(※14)でのライブ録音のようだが、ライブで披露されたナンバーがどうしてアルバム『pure soul』未収録となったのか、そんなことに思いを巡らせるのもおもしろいのではないかと思う。

そして、これもまた“アンソロジー”シリーズの優れている点なのだが、DISC3に収録された映像がすごい。阪急西宮スタジアム公演2時間超、ドキュメント1時間弱の併せて3時間強。出し惜しみしないにもほどがあるぞといった感じだが、収録時間以上にその中身も充実している。『pure soul in STADIUM "SUMMER of '98"』(※15)は1998年12月にビデオ作品として発売されているものの、この時はポートメッセなごや、阪急西宮スタジアム2公演の“ニコイチ”だったうえ、演奏された楽曲をすべて収めていたわけではなかったのだが、今回は以前、省かれた楽曲をまさに余すところなく収録。具体的に言うと、「原色の空」「Little Lovebirds」「COME ON!!」「SHUTTER SPEEDSのテーマ」「彼女の"Modern…"」「グロリアス」(※16)のライブ映像が初披露され、ライブの流れを把握できるようになっている。アルバム『pure soul』の所謂レコ発ツアーであるので当然その収録曲中心のライブではあったのだが、2ndアルバム『BEAT out!』、3rd『BELOVED』(※17)、さらには当時のアルバム売上日本記録を樹立したベスト盤『REVIEW-BEST OF GLAY』(※18)を経て、GLAYのライブの“型”といったものを創ろうとしていた時期だったと想像できて、なかなか興味深い。演奏、ステージ演出もさることながら、個人的に注目したのはTERUのMCだ。今となってはリラックスした様子でとてもフレンドリーに会場に話しかけるTERUだが、さすがにこの時期は口調も堅い。正直言って、観客と上手く交歓できてないようなところもあるし、それに対して若干イラっとした表情を見せるところもある。若気の至りと言ってしまえばそこまでだが、そうしたシーンも包み隠さず披露する点にはむしろ好感が持てるし、生々しい1998年夏のGLAYの記録だと思う。

ドキュメンタリー映像はさらに内容が赤裸々だ。まず、いきなり現れる伝説のバンド、NEVER MIND(※19)の姿にはコアなファンは歓喜必至だろう。トニーの悪乗りもまた若気の至りとも言えるが、最近で言えば「彼女はゾンビ」や「シン・ゾンビ」(※20)に至る独特の感性の発露、そのビギニングだったのかもしれない(あ、それはトニーがHISASHIと同一人物だったとした場合だが…)。スタッフに大量のビールをかけられて、ライブハウスでもろ肌脱いで歌うTERUもレア映像だろうし、それ以外にも、各会場で客席に降りたり、アリーナを走り回ったり、ダイブしたりと、今ではなかなかお目にかかれないパンクバンドさながらのメンバーの挙動も注目ではあろう。ドームツアーのゲネプロ(=最終リハーサル)風景もかなり貴重だと思う。それを初めて見る我々には“裏側での準備はこんな風になっていたのか!?”といった驚きがあるはずだが、当時、ステージセットや舞台装置を見たメンバーが驚き、喜ぶ様子もしっかりと収められている。セットを見渡したHISASHIの「プロみたいだね、僕らって」というつぶやきは当時は偽りのないものだったのだろうし、ある意味でこの時期のGLAYを象徴する台詞かもしれないと考えると、かなり感慨深いものがある。その他、「シチュードボー」が「サバイバル」(※21)に変わっていく様子もとてもいいが(何を言っているのか分からないだろうが見ると必ず分かる)、何よりも随所々々で映るメンバーとTOSHIやD.I.E.、SHIGEらとのやりとりや、スタッフとの会話からはその信頼関係の深さが感じられるのがとてもいい。あの頃、メンバー、スタッフ、関係者が一丸となって国内音楽シーンの頂点に登り詰めて行ったことが分かって、ブックレットと併せて、史料としても一線級なアイテムと言える。その点でも『pure soul Anthology』は必携であろう。

文/帆苅智之
※1:GLAY ✕ HOKKAIDO 150 GLORIOUS MILLION DOLLAR NIGHT vol.3
2018年8月25日、26日に函館・緑の島で開催される5万人動員の野外ライブ。GLAYにとっての同会場でのライブは5年ぶりとなる。
※2:pure soul Athology
2018年7月31日に発売されるGLAYアンソロジーシリーズ6作目。1998年7月29日にリリースされた「pure soul」に収録された楽曲のリミックス&リマスタリング音源を収録。収録楽曲のデモ音源や「pure soul in STADIUM "SUMMER of '98" 阪急西宮スタジアム」(1998年8月30日)公演などの映像も収録され、当時のメディア掲載記事や写真を掲載したブックレットもつく。
※3:pure soul
1998年7月29日にリリースされたメジャー4作目のアルバム。売上枚数は242万枚を超え、GLAYのオリジナル・アルバムの中では売上枚数が最も多い。
※4:HOWEVER
1997年8月6日リリース、12thシングルにしてGLAYにとっては初のミリオンセラーとなった代表曲。
※5:pure soul in STADIUM "SUMMER of '98" 阪急西宮スタジアム
1998年8月30日に開催されたライブ。「pure soul in STADIUM "SUMMER of '98」はアリーナやスタジアム規模の大会場で全国7都市13公演が開催された大規模ツアー。
※6:YOU MAY DREAM
アルバム「pure soul」収録曲。アルバム冒頭を飾る痛快なロックナンバー。
※7:誘惑
アルバム「pure soul」収録曲。1998年4月に発売されたGLAYの13枚目のシングル。1998年度のオリコン年間シングルランキング1位を獲得した楽曲。
※8:SOUL LOVE
アルバム「pure soul」収録曲。1998年4月に発売されたGLAYの14作目のシングル。「誘惑」との同時発売で、両シングルで2週連続で1位2位を独占した。
※9:I'm in Love
アルバム『pure soul』収録曲。1998年7月リリース。オセロ、長島三奈、鈴木紗理奈、山本シュウ、中山加奈子、富田京子、せがわきりなどがコーラスで参加。ライブでもラストナンバーとして演奏されることが多い。
※10:COME ON!!
アルバム「pure soul」収録曲。プロデューサーの佐久間正英をギターに迎え、一発録音で収録されたロックナンバー。現在もライブでたびたび演奏される。
※11:3年後
アルバム「pure soul」収録曲。重厚なベースサウンドに歪んだギター、ボーカル、ピアノ、ドラムが重なっていく壮大なスケールのスローナンバー。
※12:PEACE OF MIND
96年のツアーで演奏されたTERUによるGLAY未発表曲。
※13:BEAT out! '96
1996年1月~3月に全9公演開催した『BEAT out! '96』ツアー。全国8都市9公演を開催。
※14:BEAT out! reprise
1996年8月~9月に全11公演開催した『BEAT out! reprise』ツアー。全国9都市11公演を開催。
※15:pure soul in STADIUM "SUMMER of '98"
1998年12月9日にVHSとDVDでリリースされた映像作品。「pure soul in STADIUM "SUMMER of '98"」のライブ映像を収録。
※16:「原色の空」「Little Lovebirds」「COME ON!!」「SHUTTER SPEEDSのテーマ」「彼女の"Modern…”」「グロリアス」
「COME ON!!」以外は「pure soul」に収録されていない楽曲。
※17:2ndアルバム『BEAT out!』、3rd『BELOVED』
『BEAT out!』は1996年2月7日リリース、『BELOVED』1996年11月18日リリース。
※18:REVIEW-BEST OF GLAY
1997年10月1日にリリースされたベストアルバム。415万枚の売上を達成し、当時の日本記録を樹立。1999年にはギネスブックに「日本で最も売れたアルバム」として掲載された。
※19:NEVER MIND
GLAYのメンバーとドラム・TOSHIに酷似したメンバーによる覆面バンド。
※20:「彼女はゾンビ」や「シン・ゾンビ」
「彼女はゾンビ」は2016年1月27日リリース『G4・IV』収録。HISASHI作詞・作曲。この楽曲をもとに「シン・ゾンビ」が生まれた。2017年7月12日リリースの『SUMMERDELICS』収録。
※21:サバイバル
1999年5月19日にリリースされたビデオシングル。同年10月20日リリースのアルバム「HEAVY GAUGE」にはリテイクバージョンが収録された。

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