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INTERVIEW

Vol.116 HISASHI インタビュー

10月にリリースされる、GLAYの17枚目のオリジナルアルバム『Back To The Pops』。通常、作品を「〇〇のような」と他のアーティスト名を挙げて形容するのは取材者のマナーとして避けているが、このアルバムのインタビューではメンバー自ら「〇〇のような」と解説してくれる場面が多く、それが曲の本質に直結しているケースが多かった。少年、青年期に憧れ、ルーツとなった音楽家たちへの敬意と愛情が、このアルバムには色濃く投影されている。
HISASHIが作詞作曲を手掛けた収録曲は、「会心ノ一撃」。しかし、ENHYPENのJAYとのコラボレーションで世を賑わした「whodunit」をはじめ、TAKUROから受け取ったラフなデモ音源を基にHISASHIがアレンジを手掛け、発展させた曲が幾つも存在することが、インタビューの中で判明した。終盤でこのアルバムを「GLAYの歴史が見える」と表現したHISASHIの視点で、アルバム完成までの道程と、込めた想いを語ってもらった。

2024.10.4

アルバムが完成して、率直に今どのようなお気持ちですか?
HISASHI

コロナ禍以降、わりと自由になった環境下での制作だったんですけども。一歩立ち止まるきっかけにもなった新型コロナウイルスの影響が、若干表れているのではないかな?と。30周年以降の自分たちの音楽をつくっていく環境を、もう一度見直す契機になった、というか。結果的に特に変化はなかったんだけども、より音楽とバンドとGLAYを楽しめるような環境を大事にしたいな、という感じかな。立ち止まってみて、結局「自分たちのやっていることは間違ってなかったし、自由に音楽をやるとこういう作品が生まれるんだ」ということを、改めて感じましたね。

コロナ禍の制約から解き放たれ、やりたい音楽をより純粋に追求した結果なのか、楽曲のバリエーションがより豊かになっていると感じます。
HISASHI

メンバーの個性、得意な部分を表現すると自然にそうなるんですよね。やっぱり音楽って、どう突き詰めても音楽なんです。歌は歌以上でもなければ以下でもなく、あまり肩に力を入れずに、自分たちのスタンスを1番大事にして、ベルーナドームに来てくれた皆の気持ちも受け止めて。やっぱり、僕らは僕らの想いでやっていくことが役割なんじゃないか?と。だから、コロナ禍での影響はありましたけども、再開してみて、さほど変わらずに自分たちの音楽ができているのは、GLAYがずっと休止もせずに続けてきたところにも繋がることではないかな?と思いますね。

制作自体は随分前から始まっていたと思うのですが、『Back To The Pops』というテーマが見えてきたのは、HISASHIさんの中ではいつ頃だったのでしょうか?
HISASHI

まずTAKUROがロスからラフなデモアイディアを送ってきて、僕が自宅で作業して、それを何回かやり取りする中で曲をつくっていったんです。最初はバラバラのように感じていたのが、やっぱり「whodunit」ができたのが大きかったかな? 僕らは定期的に他アーティストとのコラボレーションをしてきたんですけども、今回JAYとやった時に、新たなムーブメントを感じました。今の日本の音楽業界のことだったり、そういうのを別に意識せずに取り込んでいく、というGLAYの柔軟さだったり。

アルバムには、特定のジャンルにこだわらない、多彩な楽曲がひしめいていますよね。
HISASHI

ここ1年ぐらいの中で、アルバムに向けて楽曲をアレンジしてきたんですけども、特に決まったテーマもなく。音楽のマーケット自体、ファストミュージック的にどんどん表情が変わっていくな、という感じも受けながら、僕らはその移り変わりを楽しんでいきたいとも思っているので。メンバー、いろいろなミュージシャン、スタッフ、クリエイターと一緒にやっていくこと自体が、激流の現代のエンターテイメント・ビジネスの流れにおいても僕らが面白く、楽しんでやれていることの証なのかな?と、思っていますね。

続いて、各曲の詳細を伺っていきます。HISASHIさんには6曲分語っていただきたく、まずはM1「Romance Rose」についてです。「彼女の“Modern…”」の頃から原曲は存在していたそうですが、今作に収録する流れになったのは、どういう経緯があったのですか?
HISASHI

TAKUROのアイディアの中で、今作でやりたい曲が数曲あって。その中にあった、既に知っている曲のうちの一曲でした。この曲は“アルバム曲で光る曲”というか。今って、シングル、アルバムという立場を皆さんどう見ているのか分からないですけども。シングルにはA面B面があって、アルバムであれば「これがあるからこそ次の曲が輝く」だとか、僕らは世代的にはそういった音楽の聴き方をしてきたんですよね。

配信で音楽を聴く世代にとっては、アーティストがそれをどういう位置付けで世に送り出した曲なのか? 作品全体の流れにおいてどこに配置されている曲なのか?を踏まえて聴く意識は、きっと希薄ですよね。
HISASHI

「Romance Rose」は、位置付けで言うとすごくマイナーな存在の曲で。そういう曲は実は、流れで聴く中ではすごく大事だと思っているんですよ。僕がかなり手を入れてアレンジして、僕好みになった曲です。80年代に聴いていた音楽は、ギターがグイグイと楽曲を引っ張るような曲ではなくて、ハイファイな楽器たちがフィーチャーされていたんですよね。それを「嫌だな。もうちょっとギターが目立ちたいな」とは僕らは受け止めてはいなくて、「その中にいるギターがすごくカッコいいな」と思って聴いていたし。だからこの曲でも、頭から僕はギターを弾いていないんです。Bメロから入ってくるんだけど、サビも左手を添えるだけ、みたいなギターアプローチで。実は僕、そういう楽曲が好きなんですよ。

もっとギターを弾きたい!とはならないのですか?
HISASHI

ならないですね。むしろ今回はシンセだとか、バンド以外の音を目立たせたかった。だから、今までのGLAYとは少し印象が違って、落ち着いた感じに聴こえてくるのかも。ま、そんなに大きくは違わないですけどね。

個人的にはブライアン・フェリーだとか、ロキシー・ミュージックと言ったほうがいいのか、そういったサウンドに通じる懐かしさを感じます。
HISASHI

いわゆるDX7(※80年代のシンセサイザーブームの火付け役となった、YAMAHAが発売した、世界初のフルデジタルシンセサイザー)とか、シモンズ的な電子ドラム(※YMO、C-C-Bなどのテクノポップ・サウンドを特徴付ける、六角形のパッドで構成された電子ドラム)だったり、リバースでフィルが入ってくる感じだったりが特徴的ですよね。

ドラムはピエール中野さんですが、HISASHIさんの発案なのですか?
HISASHI

そうです。僕は彼のタムの使い方がすごく好きで。1番高い(音の)タムは、当時の80年代の音楽を象徴できるんじゃないかな?と思ったし、あとはエイトビートのタイトさ、とか。打ち込みをやっている時既に、僕の手癖で中野くんっぽい感じだったし、いわゆる手数ドラマーみたいな人のドラム要素が欲しかったので、中野くんにお願いしました。電子メスのような、切れ味の鋭い感じにしたかったんですよね。いろいろなきっかけがあってお願いした中野くんが、打ち込みを忠実に再現してくれました。

TERUさんの歌に関しては、HISASHIさんはどう思われましたか?
HISASHI

サビのコーラスは2周目から1オクターブ上に行くんだけど、その何かいびつな感じも良かったのかも。僕のデモの段階では、最初から高いコーラスを入れていたんですよ。でも、「それだとつまんないのかな?」と思ってはいて。狙いかどうか分からないですけども、結果的にそういった仕上がりにはなっていましたね。

ギターソロも1回目は抑制的で短く、2回目は華やかになりますね。
HISASHI

ギターソロは、本当は要らないぐらいだったんですけどね。入れずに曲が極端に短くなるのもな……と思ったので、ギターソロというか、リフと中野くんのドラムとの間奏を入れているんですけども。派手なソロを弾きたい、というのはもう一切無くて。

この曲に関しては、さり気ないギターの存在の仕方が正解、という?
HISASHI

そうですね。途中で弾かないでアウトするところがあるとか、最後の1小節だけ出てくるとか。そういういびつな感じにしたかったんです。

聴き手としては、弾いていない部分はライブでどう表現されるんだろう?と想像する楽しみもあります。
HISASHI

僕らが音楽を始めた当時って、割とこういう感じの曲があったんですよね。吉川晃司さんとかの曲もそうだし、ギターがすごく目立つ、という感じではなかったから。そういう曲を「いつかはやりたいな」とは思っていたんですけど、これまではバンドサウンドで仕上げると、どうしてもそうはならなくて。Aメロがあって、Bメロでアプローチがあってサビはこうなって、という組み立て方ではない曲にしたいな、と思っていました。

ありがとうございます。次はM3「シェア」について。後ほどお訊きする「whodunit」と両Aサイドシングルとして5月にリリースされた新曲。こちらも、ギターが前面にグイグイと出る曲ではありませんよね。
HISASHI

そうですね。ギターでグルーヴをつくる曲でもないと思っていたので、この曲も「Romance Rose」に似ていますね。

こういったシティーポップ調の曲は、HISASHIさんのカラーとは少し異なっていると思うのですが、プレイにおいて、どのようなことを心掛けて向き合うのでしょうか?
HISASHI

この曲はもう、亀田(誠治/プロデューサー)さんにアレンジをお任せしていて、斎藤有太さんがシティーポップにかなり近付けてピアノを弾いてくださったので。ギターはその中には含まれていなかったかな?

全体的に、歌に寄り添うように奏でられているギターという印象です。
HISASHI

僕は、「シェア」という言葉に対してあまり共感できないところがありますね。

注文した餃子をシェアするのも嫌だ、とライブのMCでお話しされていましたね(笑)。
HISASHI

そうなんですよ。だから、この曲とはこれからどう付き合っていこうかな?と。自分の中に大きな問題としてありますね。ただ、ギターアプローチはすごく面白いことをやっているんですけども。

どういう点にこだわられたのか、是非詳しくお聞かせください。 
HISASHI

この曲は、デモの時点ではどういう形にもなりうる曲だったんです。カッティングだったりミュートで弾いていたり、曲の中でバリエーションを増やしたいな、と自分の中では思っていて。なので、A、B、サビ、間奏と全く違うアプローチで弾いていますね。

ありがとうございます。ではM5、HISASHIさん作詞作曲の「会心ノ一撃」。7月31日GLAYの日に配信リリースされた新曲です。
HISASHI

『グレンダイザーU』(※テレビ東京等で2024年7月から放送がスタートしたアニメ作品/70年代に放送された、永井豪原作によるテレビアニメ『UFOロボ グレンダイザー』のリブート)のオープニング曲としてつくった曲なんですが、リモートで福田(己津央)総監督をはじめ、各制作スタッフの方たちと打ち合わせした時に、作品の世界観を聴かせていただいたんです。もちろん事前に知っていた世界観だったんですけれども、そういう話をしていく中で、ビートのテンポだったり温度感や匂いだったり、そういうものがどんどん浮かび上がってきました。最終的に福田総監督が、GLAYがどう思ったか?を大事に、自由にやってほしい、ということを言ってくださって。そこはたぶん信頼していただいたんじゃないかな?と感じますけども。

哀愁を湛えたダークなメロディーラインがHISASHIさんらしさ全開で、疾走感漲り、アニメの幕開けにふさわしい曲という印象です。
HISASHI

制作スタッフの方からは、『クロムクロ』(TOKYO MX等で放送されたテレビアニメ)のオープニング・テーマソングとして書き下ろした「デストピア」の話をしていただいたので、「その辺だったら、GLAYの中では僕が得意とする作業だな」と思って、お引き受けしました。マイナーメロディアスというイメージかな?と捉えて、YOW-ROW(GARI)くんと一緒に制作しました。

やり取りはスムーズでしたか?
HISASHI

オンラインでのやり取りだったんですけども、何十時間も直にミーティングを重ねたんじゃないか?というぐらい、僕がやりたいことを分かってくれた音づくりとフレーズだったりしたので、すごくいいラリーになったんですよね。YOW-ROWくんと僕とTERUとで全体をつくり上げてからレコーディングに入りました。TERUのヴォーカルレコーディングで行った函館では、YOW-ROWくんにも即興でラップを入れてもらって。スタジオのミラクルを絶対的に僕は信じているし、せっかく函館に行ったんだったら、そういうふうにつくるのもいいですよね。アニメに使用される曲だ、ということを強く意識はして仕上げたんですけども、出来上がったオープニングを実際に観た時、「この画を事前に知っていたんじゃないか?」というぐらい、ピッタリとハマッていたんですよ。音楽とアニメーションが交わって、エネルギーに変わった瞬間は、すごくやりがいのあることだな、と感じましたね。

音楽とアニメが融合して生まれるエネルギーに関しては、『STUDIO HISASHI -with Anime-』(AT-DXの配信番組)でも毎回、ゲストの方と熱く語り合っていらっしゃいますね。この曲の歌詞では、何を心掛けましたか?
HISASHI

例えば傷を表現するのに<血の味>とか、わざと皆の耳に引っ掛かるような言葉を選んではいましたね。この曲に限らず、僕の作品全体的にそうなんですけど。歌詞に<VIVA LA VIE EN ROSE>と出るんですが、「昭和、平成と来たら、“令和のLA VIE EN ROSE”をつくろう」と思っていたんです。吉川晃司さん、デランジェ、GLAYと来たら綺麗な流れじゃないかな?と。“「桜」現象”みたいなことですよね(笑)。

(笑)。
HISASHI

それでタイトルを「LA VIE EN ROSE」にしようと思っていたんだけど、サビで2拍ブレイクの後で<会心ノ一撃>という言葉が出てくる時に、「あ、でも答えとしては会心ノ一撃なんじゃないかな?」と。いろいろな作品の中で聞く言葉であったり、そういう名前のグループもいたりするんだけれども。最初で最後1発しか使えない必殺技、というのもグレンダイザーっぽくていいんじゃないかな?と。この歌詞とタイトルを大事に扱っていこう、と思ったきっかけですね。

『グレンダイザーU』というアニメの世界観については、HISASHIさんはどうご覧になっていますか? オンエアされた作品をどう捉えたのでしょうか?
HISASHI

70年代初頭のマジンガーZから、グレートマジンガー、グレンダイザーと続いてきたシリーズ的な要素もやっぱり感じましたよね。登場人物もそうだし。これからどうなっていくのか、まだヴェールに包まれている部分が多いな、という感じもしますけど。

長い歴史を持つ作品が、新たなメッセージを携えたリブート版として世に出ていくことについては、どうでしょう? そういった作品のテーマ曲を、30周年という節目を迎えたGLAYが手掛けるのもシンクロを感じる巡り合わせ、と言えないでしょうか?
HISASHI

この時代に再構築して、今の技術でつくった新たな作品として世に出ていくのは、すごく親切なことなんじゃないかな?と思うんですよね。フランスだとか、ヨーロッパにグレンダイザーのファンが多いとも聞いていたし。今、全体的に終わっていくロマンみたいなものがある中で、再生、リスタートというのは意外と誰もが求めていることなのにやって来なかった、というかね。だから『うる星やつら』とかも、そういうことなのかな?

たしかに、第二期が今年スタートしましたね。
HISASHI

シティーポップもそうだし、Y2Kもそうなんだけども、やっぱり時代が変わると、そういう再評価の動きが出てくるのかもしれないですね。

「会心ノ一撃」の歌詞には、HISASHIさんご自身の、世の中への風刺も入っているよ うに感じるのですが、いかがですか?
HISASHI

『グレンダイザーU』とは、また別の世界線かもしれないですけどね。
いつの時代も変わらずに、力が世の中を変えていく。そこに関しては、これだけ長い歴史があってAIとかが進化したにも関わらず、まだ白兵戦をしているっていう。

歴史から学んでいないし、アナログにも程がありますよね。
HISASHI

そう、「なんて人間は愚かなんだろう」という、それが大きな疑問です。
それは小さな世界においてもあることじゃないですか?  最近で言うとパワハラとかもそうだけども、「もう令和なんだから。AIとかがあってこれほど進化しているのに、根底の自分たちを改めたりもできないのか?」という、ちょっとした敗北感、挫折感というか。たぶん何年後も変わらないんだろうなって。だからこそ、映画だったりつくり話だったりとか、そういうエンターテインメントに希望を託してしまって夢を見るのかな?と思うところもあるしね。こんなに愚かな世の中で、なぜ皆、自然と生活できるんだろうか?という疑問ですね。

「会心ノ一撃」という言葉も、皮肉な遣い方をなさっている気がします。
HISASHI

そうね……だから、それこそグレンダイザーみたいに、例えば他の星からの侵略だったり、そういう状況になったら団結して解決するのだろうか?とか。いろいろな作品を観る中で、そんなことを考えたりもしますよね。

そこへ<VIVA LA VIE EN ROSE>という言葉が加わって、更に別アングルが加わり、深読みのしがいがあるHISASHIさんらしい世界観になっています。
HISASHI

そうなんですよ。だから、「会心ノ一撃」というのは、絶滅だよね。愚かな民へ下される最後のオチというか。解決するには、それが最終的な手段なのではないかな?っていう。あと、お話しておきたいのは、歌詞に<Breakin’ the rules>とあるのは、「OUTLAW」という曲の詞からの引用で、THE WILLARDへの敬意を表している、ということです。

HISASHIさんのルーツ、原点にある想いが刻まれているのですね。では次にM8「V.」について。ガレージロック調のアグレッシヴなナンバーで、華やかなギタープレイを筆頭に、バンドサウンドを存分に味わうことができました。
HISASHI

まさにその通りで、コーラスも含め、本当にバンドの音しか入っていないです。最初にTAKUROのすごくストレートでシンプルなラフが送られてきたんですよね。何と言うか、もう、どんな料理にもなるような食材で。それを1番ストレートにシンプルに、その曲の味が出るものにしたいなと思って。割と(焼き方に譬えると)レアで、新鮮なうちにお届け、みたいなつくり方にしました。

HISASHIさんのギターアプローチは、何をポイントとされましたか?
HISASHI

シンプルな曲の中でも僕はスパイスというか、斜めから曲を見る役目なので、ストレートなアプローチというよりは「どこに音符を置いたら面白いだろうか?」という意識でフレーズづくりをしました。例えば「こんなに気持ちいいのに、なんでそんなテンポ感なんだろう?」みたいな。

いい意味での違和感をあえてつくっていく、という感じですかね。
HISASHI

楽曲(のデモ)をもらった時に、僕の場合まずは疑問から入るので。「本当にこれでいいのか?」みたいな。そうすると、意外な 違った答えが見つかったりするんですよ。そういう式をどんどん解いていくような感じでした。とはいえ、この曲は結構シンプルでストレートですけどね。

耳が惹き付けられるのはギターのリフで、エッジが立っていて。ギターソロは全部HISASHIさんですか?
HISASHI

いや、前半はTAKUROですね。フレーズが結構スケールアウトしているんですよ。前だったら「これ、大丈夫かな?」と思うようなところだけど、今は「外れていて何がおかしいんだろう?」という感じだから。その曲に対してのもう1つのメッセージというか、「そういう音って無いかな?」と探しながら弾いていますね。

楽典通りスケール内の音を探すだけではなく、スケールから外れることを厭わず、心地良い違和感を残せるような音を自由に探していく、という感じですか?
HISASHI

そうね。簡単に言ってしまうと、和装の中に洋服を入れて仕上げる、みたいな。最後の仕上げに、スタイリストさんがよくやる“ちょっと着崩す”みたいな。たぶんシンプルに仕上げたら、本当にシンプルな曲だったと思うんですよね。でも、中東や沖縄の音階だとか、そういうのをちょっと入れるのが俺の役目なんじゃないかな?と。

多国籍感というか、コスモポリタン的というか。
HISASHI

そうですね。僕は日本の料理が好きなんですよ。それは、世界中の料理を食べやすくアレンジして届けているからで。いろいろな国へ行って思ったんだけど、おもてなし文化ですよね。オルタネイティヴだったり、クロスオーバーとかミクスチャーとか、今の時代は全てが集まって凝縮されてアウトプットに向かっていき、「そしたら、こういうランキングになりました」というのが、すごく面白いんですよね。80年代の、日本のロックがビジネスになってきた頃の凛とした感じとは違う、本当にもうミクスチャーですよね。今はそういうのが自然と耳に入ってくるじゃないですか? だから、 シンプルにやっても良かったんだけど、ちょっと香り付けというか、味付けを変えてみようかな?という考えもやっぱり残りますね。

今お話を伺いながら、今作は、様々な音楽性を咀嚼してGLAYが独自に生み出した曲たちが並ぶ、和食のような多彩さとオリジナリティを持つアルバムだと思えてきました。
HISASHI

「BRIGHTEN UP」(M7)も、完全にUP-BEATのエイトビートのイメージだったんですよね。だから、やっぱりドラムは永井(利光/サポートドラマー)さんしかいないだろうな、と。この曲もシンセの使い方にこだわった曲です。ローファイ・ストリングスを使うと弦っぽく聴こえなくて、年代がバグッて聴こえる、みたいな。そうやってつくったイントロは「美しいな」と。時代とか国とかがちょっと分からなくなるようなエッセンスというのは、全曲に通じる目標でもあったかな、と思います。

M10「whodunit」は、JAY(ENHYPEN)さんを迎えた制作、およびベルーナドームでのサプライズ共演が大きな話題となったシングル曲。一連のコラボレーションをどう振り返っていますか?
HISASHI

スタジオのブースに入って録ることすら難しい、とにかく忙しかったJAYが、オケを流しながらICレコーダーで仮歌を入れた音源が届いた時に、メンバー全員「これは大成功の匂いがするな」と感じたんですよ。むしろ「このテイク(そのままで)良くない?」ぐらいだったし、その荒っぽさが良かったんです。それを信じながら、僕らは日本で着々とオケをつくっていきました。やっぱりこの曲も、TAKUROからは最初ラフなデモが届いたんだけど、不完全な状態だったんですよ。まぁ、まだそういう状態なのに送ってくるようになったこと自体を喜べばいいのかな、と思う私もいるんですが……。

信頼関係がある、という証ですもんね。泥人形のようなデモだった、と評しておられましたが(笑)。
HISASHI

そうそう、生まれたての孫悟空みたいな感じだった(笑)。TAKUROがやりたいことは分かるんだけど、形には全然なっていなくて。MGMTの「Kids」みたいな印象的なフレーズを頭に付けたい、というのは絶対だったんですよ。それであのイントロが出来たんです。最初僕が考えたイントロは、TAKUROのギターと一緒に入ってくる、あのちょっと複雑なシンセのメロディーのほうだったんです。それと同時にあのシンプルな四分のメロディーが鳴っていて、でも僕は最初それが嫌で。「絶対に俺が考えたフレーズのほうがカッコいいんだけどな」と思っていたんです。だけど、どんどん聴き慣れていくうちに、「whodunit」にはあの音が象徴的だと感じるようになっていきました。

貴重なイントロ誕生秘話ですね。
HISASHI

Aメロとサビのメロディーと、あとはJAYとのコラボパートがあるだけで、本当にシンプルな構成なので、どうとでも出来るデモだったし……なんか、いろいろ思い出してきたなぁ。最初は「これ、打ち込みでいいんじゃないかな?」と自分では思っていて。リモートでメンバーと「誰と一緒にやろう?」という話になった時、YOW-ROWくんにお願いしようかな?というアイディアもありましたけど、やっぱり彼には「会心ノ一撃」のほうが合っていたと思うし。ギリギリの段階まで僕が打ち込んだ電子ドラムだったんだけど、永井さんに叩いてもらって。その後、生だけどカッチリとした電子的なシーケンスフレーズにピッタリ合うようなドラムにしていこう、という作業をしましたね。

JAYさんが持っているリズム感、グルーヴ感と永井さんのドラムは合っていますし、GLAYのバンドサウンドにもJAYさんはしっかりと馴染んでいる印象です。
HISASHI

皆それぞれにノリが違うし、全員そうなんですけど、だからこそ不思議なんですよね。もちろんTERUとも違うし、彼にしかできない、この曲への歌の乗せ方というのがあって。僕らはやっぱりGLAYが新しいものと混ざる瞬間がすごく好きなので。今回も、ICレコーダーで録られたJAYのデモを聴いた時から、成功のゴールに進んでいくことになりました。結果的に、コラボレーションを出来てすごく良かったと僕は思います。30周年を記念する作品はGLAY単体で良かった、と言う人もいるかもしれないけど、そういう意見ももちろん理解できるし、30周年は逆に新しいことをするというGLAYも理解できる。だから、そうなるともう個々の好き嫌いでいいんじゃないかな?と思って。今年に出る曲は全て30周年の曲、みたいな感じでもありますからね。僕らとしては、「whodunit」という曲が出来たことで、道筋がすごくしっかりしたんですよ。新しいものを取り入れているし、楽曲も久々にこういうタイプの曲をやったし、ベルーナドームにも繋がったし。日本の音楽ビジネスの今というものも感じられたし、この曲は大きな舵を取ってくれたんじゃないかな?と思っていますね。JAYのほかにも、中野くんもそうだし、チャラン・ポ・ランタンの小春さん、清塚(信也)さんともコラボレーションしているアルバムだし、そういったフットワークの軽さもGLAYらしくていいんじゃないかな?と思っております。

最後にM12「なんて野蛮にECSTASY」についてお聞かせください。クラシックmeetsメタルとでも呼びたい、大胆なハイブリッド曲です。
HISASHI

この曲もドラムは中野くんですね。デモは永井さんが叩いていたのかな?聴いた時に「すげぇメタルな曲だな」と思って。元からツーバスだったし。中野くんは彼の解釈で叩いているから、ミクスチャー感が出ている曲にはなりましたね。B'z感もあるし、この曲はいろいろなものが入ってるよね。

冒頭と間奏に、清塚さんのピアノがかなり大胆に入っていますね。
HISASHI

単体としてツルッと繋がった1曲があったんですけれども、後で切って、清塚さんパートをフィーチャーしてつくる、という形でしたね。間奏も元々はピッタリと(現在は分割されている前後が)くっ付いていて。中野くんのドラムもそうだけど、この曲は狂気だとか、そういったものを感じたかったんですよね。ヒリヒリした感じが欲しかった。その瞬間がアルバムというパッケージに収められるような、すごい緊張感。それをやってみたかったんです。この曲はTAKUROのデモのアレンジがかなり完成されていたので、僕として特筆すべき点は、清塚さんの間奏の直前です。ものすごく緊張感のあるパートなんですけども、僕がつくったリフに中野くんがドラムを合わせてくる、あそこが1番聴きどころじゃないかな?と思っております。

構成が大胆で、アルバムの中で一番ギョッとした、大胆さと自由さを感じる曲でした。
HISASHI

やっぱりGLAYのメンバーは今でも音楽リスナーで、音楽を楽しんでいて、「誰かと一緒に演奏したい!」という想いも強くある純粋なミュージシャンだとは思うんですよね、こういう曲をやるってことは。

アルバム全体を俯瞰して、「30周年というタイミングだからこそこうなった」と感じられる部分もありますでしょうか?
HISASHI

収録されている楽曲も、やっぱり古い曲が結構あったり、新しい曲もあったりする中で、“GLAYの歴史”が見えるような内容ですよね。僕らは過去を否定したがらない。これはいろいろなインタビューで言っている通り、99年の『GLAY EXPO』を再現したところで、僕らはそれまでの曲たちを(リバイバル公演に限らず)やり続けているんですよね。悪く言うと新鮮味が無いけど、いい意味で言うと、すごくこの30年間ずっと大事にしてきている、ということでもあるんですよ。だから、我々の生き様自体がもう、『Back To The Pops』をしていないのではないか?と。これが通常営業なんですよね。その時代時代で、佐久間(正英)さん、土屋(昌巳)さん、YOSHIKIさん、亀田さんもそうですし、常に敬意を持ち合わせているし、自分たちの音楽もすごく大事にして演奏していますし。バンドはやっぱり曲があってバンドだし、その曲に感謝しながらやらないといけないなと、常に思っているわけですよね。

ベルーナドームでは、99年の『GLAY EXPO』で披露した、デビュー曲「RAIN」のパンクヴァージョンも再現されました。当時の映像を背後のヴィジョンに映し、25年前のご自分たちを笑いに昇華していた場面はさすがだな、と感動したんです。「その話題はNG」と忖度を要求することもない、実に堂々としたスタンスですし、苦難はあれどアンタッチャブルな黒歴史は無い。そこがGLAYのバンドとしての圧倒的な強さだと思います。
HISASHI

30年経つと、過去の曲だと、言っていることも当然変わってくるわけだからね。「尾崎豊が生きていたらどんな世界線だったんだろうな?どんなことを歌っていたんだろう?」と思いますもんね。“たしかにその時代があった”ということを生き様にして音楽をやり続けていくというのは、僕は割りと美しい姿だな、と思っています。

このアルバムを携えたアリーナツアーが11月に始まります。現時点でHISASHIさんは、どのようなツアーにしたいとお考えですか?
HISASHI

いろいろな切り口がGLAYにはあるな、というのを観てほしいな。メンバーそれぞれの個性と、バンドの佇まいと。「この音楽を好きで自由にやっている、やってきた30周年だ」ということは常に、今までもテーマではあったんでしょうけどね。「Buddy」とかもそうだし、自分たちと、そして周りの人たちを大事にそういう音楽をつくってこられたのは、良かったと思っています。30年間変わっていないですもんね。「ずっと2人で…」「グロリアス」とかもそうですけど、GLAYってあの感じなんですよ。メンバーと人と一緒につくっている、みたいな。スタッフも含めて、小さなコミュニティーではあるけどそれが最終的には大きな意味になってアウトプットされる、というか。僕はGLAYの音楽はそれで正解だと思っているんですよね。

取材・文/大前多恵

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