INTERVIEW
Vol.102 HISASHI インタビュー
GLAY通算61枚目のシングル『HC 2023 episode 1 - THE GHOST/限界突破-』(※2月15日(水)リリース)について、秘めた想いと制作プロセスを尋ねたインタビュー<前編>(Vol.101)。M4として収録されている「GONE WITH THE WIND(Gen 3)」のアレンジを主導し、ドラムのリヴァーブの長さに至るまで細部にこだわったというサウンドメイキング裏話は濃密で、HISASHIがこの曲に注ぐ情熱をありありと感じ取ることができた。続いてお届けするこの<後編>では、バラエティー番組などへの単独出演をはじめ、近年活動領域を加速度的に広げているHISASHIの仕事観、プロフェッショナルとしての流儀を掘り下げている。
GLAYはデビュー30周年を目前に控える、言わずと知れたベテラン・ロックバンド。HISASHIがオーガナイザーを務め、自身のYouTubeプラットフォーム『HISASHI TV』で年始に配信している特別企画『カタカナ禁止飲み』が強いインパクトを与え、幅広い人々から愛されるのは、そのギャップに拠るところもあっただろう。GLAYとしての本業である音楽を極めるのは言うまでもなく、そういった、コアファン以外の一般層もGLAYに容易く辿り着けるようなインターフェースの数々をHISASHIは率先して仕掛け(時には自分自身がインターフェースそのものになって)、楽しみながら発明し続けているように見える。
バラエティー番組出演の背景には、ビジネス用語で言うところのBtoBの発想が垣間見えたことが興味深かったが、エンターテインメント界全体の復興(THE ENTERTAINMENT STRIKES BACK)を願う彼のスピリットを思い起こせば、腑に落ちる思考でもあった。訊けば訊くほど新たな発見があり、謎が完全に解けたと感じることがない。HISASHIはそのような重層的なパーソナリティーの持ち主である、と実感するインタビューとなった。
2023.2.17
<後編>
- テレビバラエティー番組への出演をはじめ、近年、音楽以外でのご活躍も目覚ましいHISASHIさんです。飯尾和樹(ずん)さんとの函館ロケが2週にわたってオンエアされた『ZIP!』(日本テレビ系)、ゲーム『原神』公式ラジオ テイワット放送局へのご出演が記憶に新しいですが、中には意外だと感じる番組もあり、依頼を受ける・受けない の判断基準を知りたいと思っていました。先日『HISASHI TV The LIVE #55』では、番組に“尊敬している人がいる、あるいは出ていた”が一つの基準になっているそうですね?
- HISASHI
はい、そうです。
- 最初からそうだったのでしょうか?
- HISASHI
いや、最初は「出ない」っていうスタンスだったよね(笑)。『笑っていいとも!』ですら「出たくねぇ!」みたいな感じだったけど、人は変わるんですねぇ~。
- 変わるきっかけが何かあったのですか?
- HISASHI
やっぱり、ラバーソウルという会社を立ち上げてからかな? 僕らが自分たちの好きな音楽を自分たちの好き勝手にやっていくだけではなくて、“会社として育つ”というか。会社として(他の会社などと)助け合っていくことが大事なのでは?と思ったのがきっかけかもしれないですね。それ以前はある程度、社会の人間に対する反発とかがあったりして、そういうところで負荷が掛かってこそ、いい現象が起きたりするものだと思っていたんだけど。若い頃は特にそんな感じでしたよね。ステージの上で煙草を吸うからカッコいいんだよ、みたいなね。でも、今はこういった時代で、あとは自分たちの年齢もそうだけども“共に支え合っていこう”みたいな考え方に変わったかな。そのほうが建設的だし物事も伝わりやすいし、早く終わるし、みたいなね(笑)。
- 大人な考え方ですね(笑)。
- HISASHI
もちろん、熱いロックスピリット、情熱というのはちゃんと大事に持っていますけどもね。ラバーソウルという個人事務所になってからは、僕らがやることは全て自分たちに返ってくるようになるわけで。例えば、「プロモーション活動をするのが嫌だ」と言って実際にやらなかったら当然CDは売れないし、みたいなね。それでも、GLAYは出なくなったほうじゃないかな? 音楽番組とかには出ていたけど。ただやっぱり、『(おぎやはぎの)愛車遍歴(NO CAR,NO LIFE!)』(BS日テレ)を断る理由っていうのが、俺の中にはないんですよ(笑)。
- 2回出演されていますが、タイトル通り歴代愛車へのこだわりを知ることができましたし、コースを試走する映像も最高でした。
- HISASHI
はい、最高です! あと、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)ね。
- 3回ご出演されました。
- HISASHI
うん。もう、即決ですよ。
- 『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)にも3回出られていますね。こちらはギタリストとしてのスタンスですが。丁寧に制作されていることの分かる番組ですよね。
- HISASHI
うん、『関ジャム』は本当に面白いなと。ああいう番組が他には無い中、非常に前向きなスタンスでつくられているので。
- 『人志松本の酒のツマミになる話』(フジテレビ系)はダウンタウン松本さんとの久々の共演も話題になりました。意外だったのは『THEカラオケ★バトル』(テレビ東京系)のゲスト出演です。2回出演されましたが、『HISASHI TV』に拠れば、理由は音楽界の大先輩である「まちゃあき(堺正章)が(司会者として)出てるから」と(笑)。
- HISASHI
(笑)。中に誰か一人は音楽に関係性のある人が出ている、というところで言うと、寺岡呼人さんとか、あとプロデューサーの松尾潔さんとか、いろいろな方もこれまで出られていて。たぶん、「演奏する者からしたら」という評価の視点もあったほうが、番組の深さに繋がる、ということだったんじゃないかな?
- 説得力が増しますよね。感動したのが、U-18で勝ち抜いた若き出場者たちへのHISASHIさんの寸評です。僭越ながら、その的確さと愛情に満ちた内容だと感じたのですが、あのコメントは咄嗟にお考えになっているのですか? 事前に準備されているのでしょうか?
- HISASHI
いや、無いです! 僕としては、「その人のいいところを見つけてあげたいなぁ」と思ってコメントしているだけですね。歌なんかもう、もちろん皆さん上手いわけで。あとはやっぱり、上手いのも大事だけど、今はそれを飛び越えて必要なものが、もしかしたらたくさんあるんじゃないかな?と思って。上手いから必ず売れるとも限らないし、逆に、めちゃくちゃかわいいってわけでもないけどなんか惹かれる、みたいなこともあるし。曲はすごくスタンダードでメッセージも真っ直ぐなのに、なんか癖になる、とか。やっぱり“皆に届く歌”ってそういうものなんですよね。歌の上手さとかを超えた魅力というものがシンガーには必要なんだなって、いろいろ見てきて思うから。とにかく、その人のいいところを見つけてコメントしてあげたいなって思っていますね。
- ああいったシンガーの卵たちと触れ合うことによって、TERUさんというヴォーカリストの個性を再認識なさったりもするのかな?と想像したのですが、いかがでしょうか?
- HISASHI
あの番組の話に限らず、いろいろ経験してきた中で僕が思うのは、「TERUはレコーディング慣れしてるよね」ってことですね、すごく。
- シンプルに場数を踏んで来られている、という以上の特別な理由がやはりあるのでしょうね。
- HISASHI
うーん……何だろうね? とにかく早いですね。あと、こっちが何を歌ってほしいか?というのが分かっている人。マジでGLAYのレコーディングは楽!
- 時間が掛かる現場もやはりある、と。
- HISASHI
皆さんそれぞれのレコーディング・スタイルがあって、「徹夜しないといいのが録れない」という人もやっぱり、いたりしますからね。GLAYの場合は、一番集中できる時間帯に皆が本当に集中して、そこでいいものを録る!と決めている、そういうレコーディング・スタイルなので。
- 翌朝まで延々と作業することは、GLAYの場合は絶対に無いんですよね。
- HISASHI
うん。でもそういう話、よく聞きますもんね。俺らも以前は実際そうだったんだよね。まぁ、レコーディング自体は夜中まで掛かることはなかったですけど、ミックスとかは長く掛かっていたと思う。そういった時代はありましたね、それが美徳というか。
- そうではなくなったのは、事務所設立後ですか?
- HISASHI
徐々に、ですね。「あ、長くやっても意味ないな」と感じたことがあって。それもまぁレコーディング慣れの一環なんですけどね。
- 集中力を保ちながら、決まった時間内で終わらせたほうが良い仕上がりになる、と。そういった時間の感覚も含め、HISASHIさんの仕事観について伺います。HISASHIさんがもし『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に密着取材されたとして、「プロとは何ですか?」と問われたら、どうお答えになりますか?
- HISASHI
プロですか? これは前から言っていることですけども、やっぱり人の感情を揺らすことじゃないかな? “感動させる”だとちょっと美し過ぎるからね。感情を揺さぶること、喜怒哀楽の内どれかの琴線に触れるのが、プロとしての表現者だと思う。先ほど「GLAYはポジティヴなスタンス」だと言ったように(※インタビュー前編Vol.101をご参照のほど)、怒りとか哀しみとか、そういった方向にはあまりベクトルが向かないけど。もし「プロフェッショナルな表現者とは何か?」と訊かれたら、そう答えるかな。
- HISASHIさんは、音楽という本業で人の感情を揺らすのはもちろん、多岐にわたる活動で多彩な表情を露わにすることで、観る側の感情をより一層大きな振り幅で揺さぶってくださっていると感じます。メンバーの中で、HISASHIさんが最も幅広くそれを実践していらっしゃる気がしますが、“GLAYを代表して”という使命感もあるのですか?
- HISASHI
あぁ~……。今TAKUROがロスへ行っているじゃないですか? それで、“TAKUROがロスへ行っているからバンドが動けない”というスタンスは、ちょっと小回り利かな過ぎかな?と思って。YouTube LIVEとかもそうだよね。まぁ、あれはコロナ禍が影響して始めたんだけど、“GLAY(としての活動)ができないから動けない”という自分のスタイルはもう、無くしたかったんですよね。だから、結果的に今みたいに『ZIP!』で飯尾さんとロケするようになったけど、元々はアニメ関係とか、アイドルものとか、そういったところに携わり始めたりしたのが最初で。DJ MASS(MAD Izm*)くんと2人でDJイベントをしたりとか、そういった自分の音楽的な興味から始まったことだったんですよね。
- それが今や、ものすごい広がりを見せている、という。
- HISASHI
うん、そうですね。結果的に、「自分はいろいろなものに興味があるんだな」ということに気付きましたね。
- ご自身の中での発見もあったのですね。では、これで最後になりますが、3月2日からスタートする久々のロングツアー『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-』に向けて、一言お願いいたします。
- HISASHI
最近はいろいろな場所で“悲願の声出しOK”とか、そういう話も聴こえてきますけれども。コロナ禍になって以降、今までは皆さんに“来て”くださいというライヴだったけど、ようやくGLAYらしく、僕らが皆さんの街に“行く”ことができます。ツアーの有難みというのは、函館に住んでいた僕らはよく知っていますし、今回はちょっと久しぶりの街にまたGLAYのライヴを届けに行きたいなと思っています。たぶん、皆さんの聴きたい曲がたくさん聴けるんじゃないかな? そういうツアーとなると思います。
- たくさんお話いただき、ありがとうございました!
- HISASHI
ありがとうございました!
文・大前多恵